東京高等裁判所 昭和24年(新を)2947号 判決 1950年9月30日
被告人
大久保照男
主文
本件控訴はこれを棄却する。
理由
弁護人の控訴趣意書記載の論旨について。
按ずるに記録に依ると被告人の原判示窃盜の犯行は、被告人が昭和二十四年六月二十三日、清水簡易裁判所において、窃盜罪により懲役一年に処せられ、四年間その刑の執行を猶予せられた判決言渡前の犯行であり、該判決は当時確定したことを認めることができるし、また被告人の本件窃盜と、右確定判決のあつた窃盜とが併せて、同裁判所に起訴されていたとすれば、併合審理されたものと認められること、いずれも所論の通りである、しかし刑法第二十五條第一号にいわゆる前に禁錮以上の刑に処せられたることなき者とは、前に禁錮以上の確定判決を受けたことのない者をいうのであつて、その確定判決の執行を受けたことのない者のことではないと解すべきものであるから、本件におけるように既にある罪につき懲役刑に処せられた者が、その刑の執行を猶予する旨の判決の言渡を受け、その判決確定したときは、その者がその執行猶予中に再び罪を犯して、裁判を受ける場合はもとより、その確定判決前に犯した罪で既に確定判決のあつた罪と併合罪の関係のある罪が発覚して起訴され、これについて更に裁判を受ける場合においても、刑法第二十五條第一号の解釈上、前に禁錮以上の刑に処せられたることなき者に該当しないものとしなければならないこととなり、従つて被告人の原判示窃盜の犯行については法律上執行猶予を言渡すことができないものといわなければならないのである。しかのみならず、記録を精査し、これに現われた被告人の年令、境遇、本件犯行の動機、態様、実害の程度その他諸般の事情を斟酌考量すれば、被告人に対しては情状刑の執行を猶予するに適しないものと認められるのであるから、原判決が被告人を懲役六月に処し、その刑の執行を猶予しなかつたことは相当である。